教授挨拶
近年、分子標的薬・がん免疫療法・遺伝子治療法・再生医療など、従来の概念とは異なる医薬品が次々と開発され、医療は目覚ましい進歩をみせています。がんや自己免疫病など、従来良い治療法がなかった難治性疾患についても、「根治」が夢物語でなく現実のものとなりつつあります。これら近年の医療の進歩は、単なる偶然の産物ではなく医学の進歩に裏付けられたものであり、医療と医学が車の両輪となって前進していくことの証でもあります。
これまでの研究では、細胞株や動物モデルなどを対象とする基礎研究が発展した一方で、ヒトの病気を再現して解析を行うことには限界がありました。しかし今日、分子生物学の進歩とともに、核酸やタンパク質などの解析技術が格段に向上したことから、ヒト患者の検体を直接解析して、ヒトの病気に迫ることが可能になってきています。従来、がんや炎症性疾患などの病気は臓器別に区分され、治療・研究が行われてきました。しかしながら、病態および発病のメカニズムが詳細に解明されるにつれて、免疫異常・代謝異常・遺伝子異常などの病態別に治療・研究を行うことが望まれています。今後は病態(病気の成り立ち)という横串で、疾患を面として捉えられるような、診療科の垣根を越えた診療・研究体制が必要になると考えられます。
私たちは、生命現象を追求する従来型の基礎研究とは異なり、最新の遺伝子工学技術やタンパク質解析技術などの分子生物学的手法を応用しながら、患者検体を対象とした解析を進めています。そして、現在の医療ニーズを意識した上で、ヒト疾患の病態メカニズムを明らかにするとともに、新たな診断薬・治療薬を開発しています。言い換えると、臨床現場で見出した課題を基礎研究に落とし込み、得られた結果を再び臨床現場にフィードバックするという、医療現場への応用に直結した医学研究 “リバーストランスレーショナルリサーチ” を進めています。
医師は医療人であるとともに医学者でもあります。日進月歩の医療の発展に常に追い付き、最新の医療を患者に正しく提供するために、医師は医療人として最新の医学情報を収集し、しかも医学者としてそれを理解して応用する能力が求められます。研究の世界にたとえ一時でも軸足を移し、医学者としての研鑽を積むことは、医師として非常に重要な意味があります。
もう少し話を聞いてみたいと興味を覚えた方、ぜひ一度研究室にご連絡下さい。まずは私たちの研究内容を具体的にお話しいたします。話を聞いてみて、そしてあらためてじっくりと考えてみて下さい。
講座について
基本理念
医学(研究)の進歩があり、医療(診療)が発展する。
また、医療(診療)の発展があり、医学(研究)の進歩がある。
医学と医療はどちらが欠けても前進することができません。一流の医療人・医学者には医学と医療の両方をバランスよく動かす能力が必要であり、そのような人材を育てるのが、リウマチ・膠原病・アレルギー内科分野の基本理念であります。
医学研究と日常診療(医療)とが融合しつつある革新的で特徴的な分野
リウマチ・膠原病・アレルギー内科分野は、これまで難治性疾患とされてきた免疫異常という共通の病態を根底に持つ多彩な疾患群を対象に診療を行う科です。多くのリウマチ・膠原病・アレルギー性疾患は病変が全臓器に及ぶことが多く、そのため全身性疾患としての診療(診断・治療)を行わなければならず、当科の診療を通じて総合的で幅広い臨床力を培うことができます。また、このリウマチ・膠原病・アレルギー内科分野は、生物学的製剤の開発と並行して、近年特に病態解明が進んできました。その結果、これまで有効な治療法がなかった関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの免疫難病に新しい薬剤が次々に実用化され、根治が夢ではなくなってきています。リウマチ・膠原病・アレルギー内科は、他の領域に先駆けて医学研究と日常診療(医療)とが融合しつつある革新的で特徴的な分野であります。当科においては、最新の基礎医学の知識をもとに、リウマチ・膠原病・アレルギー性疾患の根底にある免疫異常の病因・病態をよく考察して、新たな診断薬・治療薬・治療法を開発し、リウマチ・膠原病・アレルギー性疾患の医療に貢献することを目的としています。
基礎研究および臨床研究からの双方的アプローチ
リウマチ・膠原病・アレルギー内科分野の診療では、サイトカイン等の免疫関連分子を標的とする薬剤がごく当たり前に利用されるようになり、今まさに基礎医学研究と日常臨床とが融合しつつあります。当講座では分子病態解析部門との強力な連携により、基礎医学研究および臨床研究からの双方向的アプローチによって、診療中の難治性疾患の病態解析、診断法開発、創薬シーズ同定を目的とする研究を実施しています。当講座メンバーの実績のひとつが、患者血清のプロテオミクス解析によって同定した新規バイオマーカーLRGです。LRGは2020年6月に炎症性腸疾患初の血清マーカーとして保険収載され、全国どの病院でも測定可能となりましたが、他の免疫炎症性疾患の血清マーカーとしてもさらなる展開が期待できます。
医歯薬総合研究所・分子病態解析部門
難治性疾患に対する有効な診断法や治療法が確立は大学病院の責務の1つです。当部門ではリウマチ・膠原病・アレルギー内科分野との連携の元で臨床検体を用いて得られた創薬標的分子に関する研究成果を医薬品や診断薬として臨床応用するトランスレーショナルリサーチ研究を推進しています。具体的には有効な治療法、診断法が確立されていない自己免疫疾患などの難治性疾患患者の血液検体を用いて治療前後に変動する遺伝子レベルやタンパク質レベルで発現プロファイルを解析することにより創薬標的分子を同定し、新規治療法開発を行っています。また、難治性癌に対しても当研究室で独自に単離したサイトカインシグナル伝達抑制分子(SOCS)を用いた新規遺伝子治療法の開発や、癌抗原に対して独自に開発した抗体医薬の開発も行っています。当研究室で発見した創薬標的分子に着目し、有効な治療法を社会に還元すべく実用化研究を進めています。
主な研究内容
◇ 免疫炎症性疾患の診療における新規マーカーLRGの応用
LRGは炎症性腸疾患の他に、関節リウマチ、膠原病、感染症などの病勢評価にも応用可能と考えられます。
さまざまな免疫炎症性疾患の検体の収集と分析を行い適応の拡大を進めています。
◇ サイトカイン研究
JAK/STATシグナル伝達経路の負の抑制分子としてサイトカインシグナル伝達抑制分子(SOCS)を世界に先駆けて単離し、ノックアウトマウスを用いてその機能を解明しました(Naka et al., 1997, Nature)。
◇ がんに対する新規抗がん剤の開発研究
アデノウイルスベクターを用いてSOCS3遺伝子を癌細胞に強制発現させることが悪性胸膜中皮腫などの難治性癌に対する有効な治療法になり得ることを非臨床研究から明らかにしました(Iwahori, Naka, et al., Int J Cancer. 2011)。
現在、AdSOCS3を用いた悪逝去撒く中皮腫に対する新規遺伝子治療法の開発に関する医師主導治験を準備しています(AMED、革新的がん医療実用化研究事業(H30年度から令和3年度))。
食道癌や膵臓癌、卵巣癌に高発現する癌抗原としてGlypican-1(GPC1)やlipolysis-stimulated lipoprotein receptor (LSR)を同定し抗体医薬標的としての有用性を示しました(Hara, Naka, et al., BrJC. 2016,Nishigaki, Naka, et al., BrJC. 2020, Hiramatsu, Naka, Cancer Res. 2018)。AMED、革新的がん医療実用化研究事業(令和3年度から令和6年度)の支援を得て抗体医薬品開発の実用化研究を実施しています。
◇ 超高解像度MRIによる膠原病脳神経病変の描出と画像的特性の解析
通常のMRIで捉えきれず、診断が困難な膠原病の脳神経系合併症を先端医療研究センター 超高磁場MRI診断・病態研究部門 との共同研究により、高精細MRI画像で可視化し、病態解明や診断法開発に応用します。
◇ 多施設産学連携による免疫炎症性難病の創薬シーズの探索
慶應義塾大学等の4アカデミアと国内製薬企業3社との間で新たな産学連携コンソーシアムを形成し、免疫炎症性難病の克服に向けた臨床研究を実施しています。診療中の患者の血液等の検体を対象に、フローサイトメトリー、遺伝子発現解析、血清蛋白分析等を行って、診療情報とともにデータベース化し、疾患関連分子の同定と創薬シーズの探索を行っています。
スタッフ紹介
リウマチ・膠原病・アレルギー内科
教授
仲 哲治なかてつじ
専門分野 臨床免疫学、腫瘍学、膠原病
出身大学 富山大学 医学部
資格・所属学会
日本内科学会(専門医)
日本臨床免疫学会(評議員)
日本リウマチ学会
日本免疫学会(評議員)
日本呼吸器学会(専門医)
メッセージ
リウマチ・膠原病・アレルギー内科は、2021年度より新設された診療科であります。
今後若手医局員を集めて岩手県、北東北の膠原病アレルギー診療の拠点となりうる診療科を目指しています。
准教授
藤本 穣ふじもとみのる
専門分野 臨床免疫学
出身大学 大阪大学
資格・所属学会
日本内科学会
日本呼吸器学会
日本リウマチ学会
日本アレルギー学会
日本免疫学会
日本癌学会
日本遺伝子治療学会
日本臨床免疫学会
特任准教授
細野 祐司ほそのゆうじ
専門分野 皮膚筋炎、多発性筋炎、自己抗体
出身大学 防衛医科大学校
資格・所属学会
日本内科学会(認定医、総合内科専門医、指導医)
日本リウマチ学会(専門医)
日本感染症学会
日本免疫学会
日本臨床免疫学会
学生時代の部活動 硬式テニス部
メッセージ
リウマチ学はまさに医学そのものです。当科では臨床現場から基礎研究へ、そして基礎研究から臨床研究に還元するトランスレーショナルリサーチを実践しています。当科ではどちらもしっかりと学び楽しく議論する環境が整っています。両面から臨床免疫学の面白さ、奥深さを一緒に探求していきましょう。同じ職場で会える日を楽しみにしています。
講師
村田 興則むらたおきのり
専門分野 リウマチ・膠原病内科学、関節リウマチ、膠原病
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
日本内科学会(認定医、総合内科専門医)
日本リウマチ学会(専門医、指導医、評議員)
日本アレルギー学会(専門医)
特任講師
鈴木 悠地すずきゆうじ
専門分野 分子生物学、再生医療、肝臓病学、消化器病学
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
日本内科学会(認定医、総合内科専門医)
日本リウマチ学会
日本消化器病学会(専門医、指導医、東北支部評議員)
日本肝臓学会(専門医、東部会評議員)
日本消化器内視鏡学会(専門医)
日本再生医療学会
学生時代の部活動 硬式テニス部
メッセージ
膠原病・リウマチ患者さんの診療に加え、がんや免疫難病に対する創薬から社会実装するまでのプロセスを体現できる環境です。臨床目線で基礎研究をすることができる臨床医科学者(Physician-Scientist)に興味がある方、どうぞお声がけください。
特任講師
駒ヶ嶺 正嗣こまがみねまさつぐ
専門分野 関節リウマチ、膠原病、免疫学
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
日本内科学会(認定内科医、指導医)
日本リウマチ学会(専門医・指導医)
骨免疫学会
助教
大河原 知治おおかわらともはる
専門分野 膠原病
出身大学 大阪大学
資格・所属学会
専門研修医 (外部研修中)
中屋 流石なかやさすが
専門分野 一般内科
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
日本内科学会
日本リウマチ学会
日本アレルギー学会
メッセージ
はやく一人前の医師になるようがんばります。
非常勤医師
石亀 里奈いしがめりな
専門分野 一般内科、リウマチ・膠原病内科
出身大学 自治医科大学
資格・所属学会
日本内科学会
日本リウマチ学会
日本臨床免疫学会
日本母性内科学会
分子病態解析部門
教授
仲 哲治なかてつじ
専門分野 臨床免疫学、腫瘍学、膠原病
出身大学 富山大学 医学部
資格・所属学会
日本内科学会(専門医)
日本臨床免疫学会(評議員)
日本リウマチ学会
日本免疫学会(評議員)
日本呼吸器学会(専門医)
准教授
世良田 聡せらださとし
専門分野 分子生物学、プロテオミクス、分子標的治療
出身大学 京都工芸繊維大学
資格・所属学会
日本癌学会
日本分子生物学会
日本生化学会
日本免疫学会
日本遺伝子細胞治療学会
日本プロテオーム学会
学生時代の部活動 陸上部
メッセージ
がんなどの難治性疾患の診断、新規治療法開発などの研究に興味がある方はぜひ見学に来て下さい。
特任講師
鈴木 悠地すずきゆうじ
専門分野 分子生物学、再生医療、肝臓病学、消化器病学
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
日本内科学会(認定医、総合内科専門医)
日本リウマチ学会
日本消化器病学会(専門医、指導医、東北支部評議員)
日本肝臓学会(専門医、東部会評議員)
日本消化器内視鏡学会(専門医)
日本再生医療学会
学生時代の部活動 硬式テニス部
メッセージ
膠原病・リウマチ患者さんの診療に加え、がんや免疫難病に対する創薬から社会実装するまでのプロセスを体現できる環境です。臨床目線で基礎研究をすることができる臨床医科学者(Physician-Scientist)に興味がある方、どうぞお声がけください。
助教
舟嶋 英志ふなじまえいじ
専門分野 分子生物学
出身大学 岩手大学
資格・所属学会
メッセージ
基礎・応用研究の双方から、難治性疾患の病態解明および創薬・治療法開発に貢献できる研究者を目指しています。当研究室に興味のある方、ぜひともに研究しましょう。
大学院生
小幡 健吾おばたけんご
専門分野 口腔外科学
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
学生時代の部活動 陸上部
大学院生
土橋 一正どばしかずまさ
専門分野 脳神経外科
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
日本脳神経外科学会
日本脳神経外科コングレス
日本脳神経血管内治療学会
学生時代の部活動 野球部
メッセージ
精一杯頑張ります。
大学院生
徐 光仁じょあきひと
専門分野 一般外科
出身大学 岩手医科大学
資格・所属学会
日本消化器外科学会
日本内視鏡外科学会
日本肥満症治療学会
学生時代の部活動 ボート部
メッセージ
一生懸命がんばりますのでご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。