
基本理念
医学(研究)の進歩があり、医療(診療)が発展する。
また、医療(診療)の発展があり、医学(研究)の進歩がある。
医学と医療はどちらが欠けても前進することができません。一流の医療人・医学者には医学と医療の両方をバランスよく動かす能力が必要であり、そのような人材を育てるのが、リウマチ・膠原病・アレルギー内科分野の基本理念であります。
医学研究と日常診療(医療)とが融合しつつある革新的で特徴的な分野

リウマチ・膠原病・アレルギー内科分野は、これまで難治性疾患とされてきた免疫異常という共通の病態を根底に持つ多彩な疾患群を対象に診療を行う科です。多くのリウマチ・膠原病・アレルギー性疾患は病変が全臓器に及ぶことが多く、そのため全身性疾患としての診療(診断・治療)を行わなければならず、当科の診療を通じて総合的で幅広い臨床力を培うことができます。また、このリウマチ・膠原病・アレルギー内科分野は、生物学的製剤の開発と並行して、近年特に病態解明が進んできました。その結果、これまで有効な治療法がなかった関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの免疫難病に新しい薬剤が次々に実用化され、根治が夢ではなくなってきています。リウマチ・膠原病・アレルギー内科は、他の領域に先駆けて医学研究と日常診療(医療)とが融合しつつある革新的で特徴的な分野であります。当科においては、最新の基礎医学の知識をもとに、リウマチ・膠原病・アレルギー性疾患の根底にある免疫異常の病因・病態をよく考察して、新たな診断薬・治療薬・治療法を開発し、リウマチ・膠原病・アレルギー性疾患の医療に貢献することを目的としています。
基礎研究および臨床研究からの双方的アプローチ
リウマチ・膠原病・アレルギー内科分野の診療では、サイトカイン等の免疫関連分子を標的とする薬剤がごく当たり前に利用されるようになり、今まさに基礎医学研究と日常臨床とが融合しつつあります。当講座では分子病態解析部門との強力な連携により、基礎医学研究および臨床研究からの双方向的アプローチによって、診療中の難治性疾患の病態解析、診断法開発、創薬シーズ同定を目的とする研究を実施しています。当講座メンバーの実績のひとつが、患者血清のプロテオミクス解析によって同定した新規バイオマーカーLRGです。LRGは2020年6月に炎症性腸疾患初の血清マーカーとして保険収載され、全国どの病院でも測定可能となりましたが、他の免疫炎症性疾患の血清マーカーとしてもさらなる展開が期待できます。
医歯薬総合研究所・分子病態解析部門

難治性疾患に対する有効な診断法や治療法が確立は大学病院の責務の1つです。当部門ではリウマチ・膠原病・アレルギー内科分野との連携の元で臨床検体を用いて得られた創薬標的分子に関する研究成果を医薬品や診断薬として臨床応用するトランスレーショナルリサーチ研究を推進しています。具体的には有効な治療法、診断法が確立されていない自己免疫疾患などの難治性疾患患者の血液検体を用いて治療前後に変動する遺伝子レベルやタンパク質レベルで発現プロファイルを解析することにより創薬標的分子を同定し、新規治療法開発を行っています。また、難治性癌に対しても当研究室で独自に単離したサイトカインシグナル伝達抑制分子(SOCS)を用いた新規遺伝子治療法の開発や、癌抗原に対して独自に開発した抗体医薬の開発も行っています。当研究室で発見した創薬標的分子に着目し、有効な治療法を社会に還元すべく実用化研究を進めています。
主な研究内容
- 免疫炎症性疾患の診療における新規マーカーLRGの応用
- LRGは炎症性腸疾患の他に、関節リウマチ、膠原病、感染症などの病勢評価にも応用可能と考えられます。
さまざまな免疫炎症性疾患の検体の収集と分析を行い適応の拡大を進めています。 - サイトカイン研究
- JAK/STATシグナル伝達経路の負の抑制分子としてサイトカインシグナル伝達抑制分子(SOCS)を世界に先駆けて単離し、ノックアウトマウスを用いてその機能を解明しました(Naka et al., 1997, Nature)。
- がんに対する新規抗がん剤の開発研究
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アデノウイルスベクターを用いてSOCS3遺伝子を癌細胞に強制発現させることが悪性胸膜中皮腫などの難治性癌に対する有効な治療法になり得ることを非臨床研究から明らかにしました(Iwahori, Naka, et al., Int J Cancer. 2011)。
現在、AdSOCS3を用いた悪逝去撒く中皮腫に対する新規遺伝子治療法の開発に関する医師主導治験を準備しています(AMED、革新的がん医療実用化研究事業(H30年度から令和3年度))。食道癌や膵臓癌、卵巣癌に高発現する癌抗原としてGlypican-1(GPC1)やlipolysis-stimulated lipoprotein receptor (LSR)を同定し抗体医薬標的としての有用性を示しました(Hara, Naka, et al., BrJC. 2016,Nishigaki, Naka, et al., BrJC. 2020, Hiramatsu, Naka, Cancer Res. 2018)。AMED、革新的がん医療実用化研究事業(令和3年度から令和6年度)の支援を得て抗体医薬品開発の実用化研究を実施しています。
- 超高解像度MRIによる膠原病脳神経病変の描出と画像的特性の解析
- 通常のMRIで捉えきれず、診断が困難な膠原病の脳神経系合併症を先端医療研究センター 超高磁場MRI診断・病態研究部門 との共同研究により、高精細MRI画像で可視化し、病態解明や診断法開発に応用します。
- 多施設産学連携による免疫炎症性難病の創薬シーズの探索
- 慶應義塾大学等の4アカデミアと国内製薬企業3社との間で新たな産学連携コンソーシアムを形成し、免疫炎症性難病の克服に向けた臨床研究を実施しています。診療中の患者の血液等の検体を対象に、フローサイトメトリー、遺伝子発現解析、血清蛋白分析等を行って、診療情報とともにデータベース化し、疾患関連分子の同定と創薬シーズの探索を行っています。